前回、高校生時代の下宿生活の話を書いた。この頃の僕は、下宿生活では仲間
に恵まれ充実していたものの、学校に行っている日中の時間は、不完全燃焼そ
のものだった。
僕が通っていた大分舞鶴高校は、大分県内では3本の指(?)に入る進学校だ
った。他の2つのライバル校と、東大を筆頭とする有名大学への入学者数を競
いあっていた。
僕も高校に入学した頃は、「有名大学進学」という学校側が期待する進路に何
の疑問も感じず、勉学に励もうと思っていた。が、その志は、わずか半年もも
たなかった。
高校の先生たちが一方的に煽りまくる進学レースに嫌気がさしていったのだ。
「有名大学入学」を目標に勉強に燃えている連中を見ていて、なんだか虚しさ
を感じるようになっていたのだ。
「ふん。大学進学のための勉強なんてくだらない。偏差値だけで人間の価値を
決め付けようとする学校なんて最低最悪だ!」などと強がったりもしていた。
でも実のところは、思うような成績をあげられない自分自身を正当化しようと
していただけだった。単に受験戦争を否定し、勉強から逃げていただけだった。
だからこそ不完全燃焼で、学校に通うたびに、虚しさを感じていたのだ。
そんな高校時代、はまった漫画がある。講談社の週刊少年マガジンに連載され
ていた「男おいどん」という漫画だ。後に宇宙戦艦ヤマトや銀河鉄道999で
有名になる松本零士氏の初期の作品である。
主人公は大山昇太(おおやまのぼった)という夜間高校に通う青年。鹿児島県
出身で、中学を卒業後、大きな夢や志を持って上京するも、実際にはお金も実
力も運も縁もなく、バイト先の工場もクビになり、夜間高校も中退するハメに。
やることなすこと失敗だらけで、四畳半の下宿で悶々とした日々を過ごしている。
押入れを開けると、洗濯していないパンツ(いわゆる猿股というやつ)が山ほ
ど詰め込まれており、そこにはサルマタケという奇怪なキノコが生息している。
昇太は、お金が底をつくと、そのサルマタケを鍋でグツグツ煮て食べるという
地を這うような生活を送る。
人から騙され、馬鹿にされ、軽蔑され続ける昇太。でも昇太には「こんなダメ
ダメな俺かもしれないが、いつかは将来の日本を背負う大きな男になるんだ」
という、大きな夢と志があった。
どんなに人から馬鹿にされようとも、「いまに見ちょれ!おいどんだって、お
いどんだって、おいどんだって……」と歯を食いしばって頑張り続ける昇太。
当時ダメダメだった僕は、四畳半の下宿でひとり頑張っている昇太と自分とを
重ね合わせて眺めていたのであろう。
失敗を続け、極貧生活を送っている昇太に、「負けるなー!ガンバレー!」と
声援を送っていた。漫画を読みながら、ひとり泣いたこともある。傍から見れ
ば相当に変な危ない奴である。
僕の下宿の本棚には「男おいどん」の単行本がズラリと並んでおり、落ち込ん
だときなどは、昇太にずいぶんと助けられたものだ。
・・・・・
12番目の素晴らしき出会い。劣等感に苛まれていた僕を、四畳半の下宿の本
棚から励ましてくれた「男おいどん」の主人公、大山昇太のお話でした。
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