作成日:2021.9.3
<コラム・その1>
パフの面接に行く前、とても緊張していた。
それは、募集要項にあった「求める人物像」を見て、ビビッていたからだ。
■パフの求める人物像
・1を聞いて10を知り、100行動できる人
・目的達成のためなら、寝ないでも平気な人
・どんなに辛いときでも笑顔でいられる人
・明日会社が潰れても生きていける人
・内定が出たら、週3日会社のアルバイトができる人
社会人になったら「思いっきり働きたい」とは思ってはいたが、人に自慢するような成果を残したこともない。相当な実力と覚悟のある人を求めているようなので、何か試されるような選考をされるかもしれない、と思っていた。
面接に行くと社長のクギサキさんが現れた。
何を聞かれるか構えている私にクギサキさんはこう言った。
「今日は、あなたの半生を聞かせてください」
その後のやりとりはこんな感じだ。
吉「え?半生っていつからいつまでですか?」
釘「記憶のあるところから今まで」
吉「え?だいぶ長くなりますよ」
釘「いいよ、全部聞くから」
その後、私は一方的に、幼稚園からの記憶を、2時間近く語り続けた。
クギサキさんは、終始ニコニコしながら「へ~」とか「ほ~」とか「なんで?」とか言いながら、ずっと熱心に聴いてくれた。
その話しやすさに、ついつい自分も気持ちが入ってしまい、辛い経験の場面では少し涙ぐみながら話していたと思う。
面接の翌日ぐらいだったろうか。合格通知の電話がかかってきた。
あんな素を出せた面接は初めてだったなぁ。「合格」したということは、私のすべてを聞いたうえで評価されたということか。私も募集要項にあったような人物に、いずれなれるということなのだろうか、と少し自信がついた。
そして、2次面接。またもやクギサキさんとの個別面接。
ここでは、私がどんなことが好きか、どんな業界のどんな会社を受けているかを質問された。
「へ~。吉川さんはマスコミ志望なんだね」
「でも話を聞いていると、純粋なマスコミ志望というよりは、絵をかいたり、デザインしたりするのが好きってことなのかな」
「だったらここに貼ってあるポスターをつくったりする仕事とか、やってもらおうかな。やってみたい?」
パフで運営しているイベントのポスターを指さしてそのような話をされた。
営業の仕事をやると聞いていたが、そんな仕事もあるのか。
小さな会社ということは、色んなことができるということなんだな。
飽き性の私には合う気がするなぁ。
なんとも単純な私は「パフという会社に入るのも悪くない。むしろ自分のような人間が活躍できそうな会社だ」と思ってしまったのだった。
(吉川安由、大学4年生の5月)
<コラム・その2>
パフの最終面接を受けた日。
面接の途中でクギサキさんがこんなことを聞いてきた。
「ところで吉川さんは、今、どんな会社を受けているの?
今年パフの採用人数は、2名。現在、最終選考に進んでいるのは、5名。
全員、ボクがパフで働いてほしいと思っている人物なんだ。
ただパフはまだ創業してまもない零細企業。だから5名全員を採用することはできない。
なので、本当にうちの会社に入りたいと思っているかを率直に聞かせてもらって、そのうえで内定を出す人を決めたいと思っています」
なんと正直な人なんだ!
率直にそう感じた。
これまで「他に受けている会社は?」という質問を面接にされたことはあったが、どれも「どれほどうちの会社について調べているのか」を見極めされているような印象だった。
そのため回答は、できるだけ受験企業と同業の会社名を挙げるようにしていた。企業の選定基準が定まらない学生という評価をされたくなかったからだ。
ただ今回は違った。
「このおじさんには、正直に話さないと。きっとすごく困るだろうな」
そう咄嗟に感じた私は、選考が進んでいる会社名とその進捗状況、パフも含めた入りたい企業ランキングに至るまで、ベラベラとすべて話してしまった。
「分かった。じゃあ吉川さんは、第一志望は○○株式会社さんなんだね。
じゃあ、他に『パフに絶対入りたい』という学生さんがいたら、その方に優先的に内定を出すことになると思う。
ただ○○株式会社さんの選考結果が出たら、一度連絡をもらえるかな。その時点で入社者が確定していなければ、吉川さんに改めて内定を出したいと思うので」
これまた正直な人だな、と思った。
ただ、企業側からこんなに正直に事情を話してもらえたことはなかったので、逆に信頼のおける経営者だなと感じた。また私を子供扱いせず、一人の大人としてきちんと「交渉」をしてくれたことも嬉しかった。
はっきり内定を言われなかったものの、なぜかとってもスッキリした気持ちで、パフという会社が好きになった。
その数日後、まだ第一志望の結果が出ていないタイミングで、クギサキさんから突然、電話がかかってきた。
釘「やっぱり吉川さんに、内定を出すことにしました!」
吉「え!でもまだ第一志望の会社の選考結果も出てないので、『入社する』
とはいえないですけど…大丈夫ですか?」
釘「うん。入社を決めてないとしても、ボクが働きたいと思った人には、内定を出すことに決めました。
採用数2名と言っていたけれど、結果的にそれ以上の人数が入社をしてくれてもよい。
一緒に働きたい人が入社を決めてくれたなら、そのメンバーでやっていけばよいかな、と決意したんです」
もし本当に5人も入社してしまったら、株式会社パフはやっていけるのだろうか。
余計な心配をしながらも、クギサキさんの経営者としてのその大胆な決断にさらにパフが面白そうな会社に思えてきた。
その電話をもらった翌日。
なぜだか私は、第一志望の会社以外の選考をすべて辞退した。
どうしてそういう行動をしたのか、実は明確には憶えていない。
ただ、実は第一志望の会社以外は、「志望業界だから」「大きな会社だから」「本社が銀座でカッコいいから」とか、安直な理由で志望をしていた。
「ここでやりたいことがある」「ここならこんなところで活躍できそうだ」「この会社のこんな点が素敵」というその会社ならでは「入りたい理由」はなかったんだと思う。
‐‐
その後、第一志望の会社から不合格通知が来た。
とっても落胆したが、「私、パフにする!」と両親に宣言したら、「残念だったけどよかったかもね。あんたパフの説明会行った日、『面白い会社だったよ』と興奮して話していたもんね」と言われた。
少し驚いた。
私は自分が思っていた以上にパフを気に入っていたようだ。
だいぶ返事を待たせていたクギサキさんには、夜だったので、メールで入社決意の連絡をした。…すると、5分も経たないうちに、自宅に電話が来た。
「入社を決めてくれてありがとう!一緒にがんばりましょう!!」
クギサキさんのとっても嬉しそうな声で、第一志望を落ちたモヤモヤが、晴れていくのを実感した。
(吉川安由、大学4年生の7月)