「なんだクギサキ。じゃぁおまえ、自分で会社を創ったらいいじゃないか」
M井さんからいきなり出てきた言葉だった。
会社を創る……。出来ることならいつかは独立したい。いつもぼんやりと考え
ていたことだった。このとき、突然この言葉を目のあたりにし、僕は自分の気
持ちが抑えられず、次第に高揚していくのがわかった。
それから一時間くらいの時間だったろうか。M井さんは、僕の背中をこれでも
かというくらい押しまくってくれた。
「クギサキ、お前は今までの人生を振り返って、『結果オーライ』でたまたま
うまくやってこれたって言ってたけど、そうじゃない」
「お前が自分で、すべての結果をオーライにしてきたんだ。お前は結果をオー
ライにできる奴なんだよ」
「やってみろよ。これから起こることを、いままでみたいにオーライにしてみ
ろよ」
何かが僕のなかで吹っ切れた瞬間だった。結局僕は、翌日から会社設立に向け
て、信じられないくらいのスピードとパワーで動き出すことになったのだ。
この日のM井さんとの酒席がなければ、僕が会社設立に向けて動き出すことは
なかったかもしれない。
M井さんはふだん茫洋としているようで、その実、人間の器の大きさを感じさ
せる人物だ。難しいことを喋るわけではない。偉そうなことを言うわけでもな
い。むしろ僕らが日ごろ難しく考えがちなことを、ひたすら単純化しながら話
してくれる。
世の中、なんにも難しいことはないんだ。難しくしているのは、自分の視野の
狭さだったり、気の弱さだったり、プライドだったり……。そんな、ちっぽけ
でくだらないことが原因なんだって、M井さんと会って話をするたびに気付く。
何度も繰り返すが、23年前のこの出会いがなければ、間違いなくいまの僕と
パフはなかった。「いまの僕とパフがない」ということは、パフの社員たちの
人生もまったく違うものになっていたということだ。パフを使って進路を決め
てくれた数多くの(元)学生たちも、まったく違う人生の選択をしたはずだ。
つくづく人の縁の不思議さと偉大さを感じる。
ちなみに、このM井さん。今はなんと、リクルートグループの中核某社の社長
を務めている。23年前の、売れない屁こきの新人営業マンだったあの日がウ
ソのようだ。
ということで、3話連続でご紹介した今回の出会いは、僕の100の出会いの
中でも五本指に入るくらいの大きな出会い。M井さんとの出会いの話でした。
今回でやっと35番めの出会い。100の出会いまであと65。先は長い……。
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