2000年6月初旬。パフの事務所移転が完了した翌日が、パフの創業以来初めて
の会社説明会の日だった。
事務所が広くなったとはいっても会議室を置くほどのスペースがあるわけでは
ない。6名がやっと座れる程度の打ち合わせテーブルを窓際に置いて、その周
りをパーティションで囲んでいた。それが、会議室の代わりだった。
パフの会社説明会は、この最大収容人数6名の「会議室」が会場だった。
したがって定員も6名。1日に2回開催。2週間にわたって、全部で10回程度
の説明会の日程を組んでいた。
当時パフには2~3万人ほどの会員がいた。就職活動のピークは過ぎていたと
はいえ、「超就職氷河期」と形容されていた当時の就職環境。告知をすれば、
まだまだ多くの学生が集まってくれるだろうと考えていた。
メルマガで、パフが会社説明会を実施するという旨の告知をした。サイトにも
詳しい募集要項を記載した。
告知をして数日後、予想通り、あっというまに説明会は満員となった。
「すごい、すごい。案外パフって人気あるじゃん!」
しかし、それが“ぬか喜び”だと気づくまで、さほど時間はかからなかった。
ドタキャンにつぐドタキャンで、1日目の説明会には、誰も来なかったのだ。
僕は、悔しいやら、悲しいやら、腹立たしいやらで、もうハラワタが煮えくり
返るような気分だった。
「どうせきょうも誰も来ないんだろうな」
なかば投げやりな気持ちで翌日の会社説明会の時間を迎えようとしていた。
開始時間の数分前だった。
「し、失礼します」
ひとりの女子学生がパフを訪ねてきた。
「お、ど、どうもいらっしゃい。さっ、さ、さー、こちらにお座りください」
その女子学生は、来てはいけない場所に迷いこんでしまったかのように、ドギ
マギしながら、僕に誘導されながらテーブルの席に座った。
「まだ他にも学生さんが来るかもしれないから、ここでもうちょっとだけ待っ
ててくださいね」
会社説明会だと言っているのに、いくら何でもひとりだけでは格好がつかない。
祈るような気持ちで、他の学生が現れるのを待った。
が、開始時間を5分過ぎても10分過ぎても、誰も現れない。
「いやー、困りましたね。誰も来ないようなので、あなた一人だけだけど始め
ましょうか、ハハハ」
と、乾いたつくり笑いを交えながら、その女子学生の目の前の席に僕も腰掛け
た。
「えっと、はじめまして。僕が、パフの代表の、クギサキです」
「あ、は、はい。私は、ヨシカワアユと申します」
これが、パフの新卒入社一期生。現在、入社7年目を迎えた吉川安由と交わし
た、いちばん最初の言葉だった。
西暦2000年6月7日・午後4時10分を少し回っていた(当時の手帳の記録によ
る)。初夏の眩しい西日が事務所いっぱいに差し込んでいたのをよく覚えてい
る。
(かなり引っ張ります。その3に続く)
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