社長 : 「分かりました。じゃ、お付き合いさせていただきましょう」
釘崎 : 「へっ?」
社長 : 「まずは、当社の会社案内を作ってもらえますか?
そうですねー、予算は200万円でどうですか?」
釘崎 : 「に、にひゃふまんーーー!?」
僕がリクルートで営業の仕事を開始して、はや2ヶ月。
まったく売れない、情けなく惨めな思いで、「もう辞めよっかなー…」
と思い始めていた矢先に、不意に訪れた初受注の瞬間でした。
釘崎 : 「に、にひゃふまん、い、いや200万の会社案内を作らせて頂けるので
すか?」
社長 : 「200万じゃ、足りません?」
釘崎 : 「い、いやいや、大丈夫です。て、ていうか、僕じゃよくわからないので
制作マンをこれからすぐ連れてきます!」
会社案内の制作は、営業マン側に、いろんな知識やある程度のセンスが必要と
されるため、新米営業マンが受注することなんて滅多にありませんでした。
しかも、今まで何一つとして商談を成功させたことのなかった、『売れない営
業マン』に売れるはずのない商品だった訳です。
訳の分からないままに、営業所に戻り所長に報告。
所長は、「おー!くぎー、遂にやったかー!おめでとう!」と自分のことのよ
うに喜んでくれ、キツーい(キスじゃなく)握手を交わしてくださり、制作マ
ンや庶務の女性や事務所にいあわせた他の営業マン達も、
「クギサキくーん、良かったねー」(庶務、制作)
「おー、クギ、これでやっと棒グラフに色がつくなー」(同僚)
と口々に喜んでくれ、
『そ、そうか…。俺、ついに売れたんだ…』
と、やっと実感が湧いてきて、なんだか熱いモノがこみ上げてくる自分に気が
つきました。
今から17年8ヶ月も昔の出来事ですが、絶対一生忘れる事のない感動の日で
した。
……
ところで、この初受注には後日談がありまして…。
初受注をくださったこの会社の社長に、
「あのー、どうしてあの日初めて会った僕に、社長はいきなり注文を出そう
と思われたんですか?」
と勇気を持って聞いたことがあります。
「いやー、実はね。私にも去年関西のある会社に就職したばっかりのひとり息
子がおりましてね。」
「はー」
「いま、大阪で営業やっとって、ひとり暮らししながら苦労しとるらしいんで
すわ…」
「そうなんですか…」
「釘崎さんが、うちの課長に小一時間も粘りながら、一生懸命営業しとる姿を
遠目で見とったら、なんかうちの息子とダブってきましてなー…」
「は、はー…」
「『うちの息子も、この若い営業マンみたいに一生懸命営業しとるだろうか…。
よし、私がこの営業マンと直接話をしてみよう』と思ったわけですわ…」
「な、なるほど…」
「まー、それで、釘崎さんと話をするうちに、ますます釘崎さんが息子みたい
に思えてきましてなー…。
『息子にエールを贈るつもりで、こいつに仕事を任せてみるか』
と、親バカで恥ずかしいんですが、初対面の釘崎さんにお願いした次第なん
ですわ…」
つまりは、この初受注は、僕の実力でも何でもなく、「たまたま」飛び込んだ
会社の社長の息子さんが「たまたま」僕と同じくらいの年頃の営業マンで、
「たまたま」事務所に居合わせたその社長は、息子のことを思うあまり「つい
うっかり」ホロホロと注文を「出してしまった」と、いう事だったのです。
出来過ぎなくらいウマイ話しだけど、これは全部「ホントのコト」。
まさに事実は小説より奇なり。
たぶん、この感動の初受注がなければ、パフが生まれる事なんて100%なか
ったと思います。
(ひとりでウルウルしながら次号につづく)
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