人形劇団の先輩からもらった『浮浪雲(はぐれぐも)』。
その日の夜、僕は自分の下宿で全10巻を読んだ。そして全身が震えた。涙が
こみ上げてきた。今までに経験したことのない感動を覚えたのだった。
『浮浪雲』は小学館のホームページの書評では次のように紹介されている。
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舞台は幕末の品川宿。物事に執着せず、ふわりと生きる問屋場の頭、浮浪雲。
子供の教育や夫婦間の問題、はたまた女性のくどき方まで、人生の名人浮浪雲
がサラリとヒントを与えてくれる。悩める現代人必読の名作ドラマ!!
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「子供の教育」や「夫婦の問題」や「女性のくどき方」に、当時大学1年生に
なったばかりの僕が感動するはずがない。
僕が感動したのは、あえて小学館の書評の言葉を借りるならば、「物事に執着
せず、ふわりと生きる」という部分であろう。
でも、そんな安っぽいことだけではない。
僕は、この本に出てくる「ある台詞(セリフ)」から、人生における大事なこ
とを教えてもらった。
その台詞は、ふだんはボーっとしている浮浪雲が、いつもクヨクヨ悩んでいる
息子に、海岸沿いで大きな青空を見ながら、真剣な、でも澄みきった瞳で与え
た言葉だった。
『小事を気にせず流れる雲の如し!!』
それを言われた浮浪雲の息子は、大粒の涙を流した。そして、自分でも青空を
見上げて叫んだ。
『小事を気にせず流れる雲の如し!!』
同時に、この本を読んでいた僕の目からも大粒の涙が溢れていた。取るに足ら
ないくだらないこと執着している自分を思いっきり恥じた。
例えば学歴コンプレックス。僕は自分が第一希望の大学に入れなかったことに
劣等感を抱いていた。自分が入った大学の同じクラスの仲間たちを馬鹿にする
ような、今思うと本当に恥ずかしくなるくらいのイヤな奴だった。
例えば女性への片思い。自分の思いを相手に伝えられないウジウジした奴だっ
た。
例えば「エェカッコしぃ」の自分。本当の自分を出すのが怖い自分がいた。
そんないろんなイヤな自分を、この言葉が吹き飛ばしてくれたのだ。
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イベントなどで、極まれに(!)僕が書いた本を買っている学生が来場したり
する。あるいは、極まれに、イベント会場で、僕の本を買ってくれる学生がい
る。
そんな学生から、本を差し出されて「サインしてください!」とお願いされる
ことがある。そんなとき、僕は決まって名前の横に書く。
『小事を気にせず流れる雲の如し!!』
僕の19番目の大切な出会いだ。僕のかけがえのない、座右の銘だ。
もしこの言葉に出会わなかったら、僕は就職することも、パフを創ることもな
かったであろう。
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