小柄で、猫背で、スーツのポケットが捩れていて、ズボンにはプレスがかけら
れておらず、短すぎる(長すぎることもある)ネクタイ姿。
これが佐々木貴智(以降、タカノリ)といわれて、すぐに頭に浮かんでくる姿
である。
もちろん最近のタカノリは、ちゃんとプレスされたズボンをはいているし、ネ
クタイだってキチンと結んでいる(小柄で猫背は相変らずだろうが、苦笑)。
が、ひとの印象というのは、なかなか変わるものではない。僕のなかのタカノ
リ像は、おそらく一生、上記のままだろう。
いきなり外見のことから書き始めたが、今週は、先週に引き続き、パフの新卒
一期生であるタカノリのことを書く。
タカノリは岩手県出身。大学に入るときに単身、群馬県高崎市の下宿に移り住
んだという。
高校時代はテニスをやっていたらしいが、なぜか大学からは体育会の応援団に
所属していた。
僕がタカノリと出会ったのは、タカノリが大学5年生の6月。前回登場のヨシ
カワの面接から一週間ほど遅れてのことだった。
面接時によく覚えているのは、ぎこちない動作とぎこちない敬語。どうしよう
もなく不器用そうな学生だったのだが、ただ実直な性格だけは、すべての応募
者のなかでも群を抜いていた。
最終面接が終わったあと、「どこの駅から帰るんだい?」とタカノリに聞いた
ら、「は、はい。東京駅に行ければと思っております!」と直立不動で答えた。
僕は、東京駅行きのバスの乗り場を教えて、彼を送り出した。
ちゃんとバス停まで辿り着けるかどうか心配になった僕は、ビルの窓からヨタ
ヨタ歩く彼の後姿を追った。
曲がらなければならない道で曲がらない。「ちがうよ、そっちじゃないよ!」
と叫びそうになった。
その声が届いた訳ではないだろうが、彼は引き返して、ぶじ角を曲がっていっ
た。「やれやれ」。思わず微笑んでいる自分に気がついた。
放っておけないタイプ。それがまさしくタカノリだった。
内定者として働きはじめてからも、本当に放っておけなかった。微にいり細に
いり、僕は彼に対して、ずいぶんと口やかましかったように思う。
内定者時代、新入社員時代までの2年間は特に、怒鳴り飛ばし、叱り飛ばし、
詰めまくりの日々だった。
特に新入社員時代に彼が責任者となって実行した「理系企画」は、思い出深い。
周囲の意見や好き勝手なアドバイスに翻弄されてしまい、なかなかうまく進ま
ない。完全に行き詰まっていた。
皆が帰宅した深夜零時過ぎ。タカノリは僕に、企画についての意見を求めてき
た。僕は彼が出した企画に対してダメ出しをしたのだが、「どこが悪いんです
か!」と彼は食い下がってきた。
僕が「そんなことは自分で考えろ!!」と突き放したときだった。彼の目から
大粒の涙がこぼれてきた。それまでどんなに怒られても、人前で決して涙を見
せないタカノリが、初めて涙を見せた瞬間だった。
「悔しいです、悔しいです、悔しいです」。タカノリは、絞りだすような声で
僕に訴えてきた。「悔しいなら、最後まであきらめずにやってみろよ。ここま
でやれたんだから、あと一息じゃないか」。そんなふうに答えたように記憶し
ているが、実は僕も泣きそうになりながら答えていたので、言葉は定かではな
い。
この理系企画、ビジネスとしては成功したとは言えなかったが、「無謀なこと
にチャレンジする尊さ」という大きな財産を、タカノリに与えてくれたのでは
ないかと思う。
そしてタカノリといえば、『役者』としての存在感が大きい。
パフのイベントでは昔から寸劇を行うことになっている。タカノリがパフに入
る前までは、演技はプロの役者にお願いしていた。が、タカノリが入社して以
来、主役のほとんどをタカノリが務めている。
古くからのお客様に、いまでも印象に残っていると言われるのが、次の一幕だ。
タカノリが自転車を漕ぎながら舞台の袖から登場。チリンチリンとベルを鳴ら
し、キーっとブレーキをかけて舞台中央で降りる。よっこいしょとスタンドを
降ろして自転車を止め、観客席の学生に向かって、「こんにちはー」と呼びか
ける。自分の耳に手をもっていき、学生の返事を待つ。「きょうは寒いですね」
など、学生と2、3会話を重ねた後「やばい!こんな時間、今日も遅刻だー!」
といって、またチリンチリンと、舞台袖に向かって自転車を漕いで消えていく。
実にペーソス(哀愁)溢れる演技だ。タカノリ以外に、この役をやれる社員は
誰もいないだろう。
昨年の春のパフ自身の会社説明会でも『パフの創業物語ALWAYS風』とい
う寸劇を行ったのだが、彼の熱演で、多くの来場者が泣いていた。僕も思わず
涙してしまったくらいだ。
・・・・・
実直で不器用で、ペーソス溢れる名俳優。最近はちょっと頑固になってきてい
るのが気になるが、いつまでたっても万人から愛されるキャラクターである。
ということで、81番目の出会い。新卒一期生のタカノリこと佐々木貴智との
出会いでした。
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