1999年3月2日。
地下鉄有楽町線の護国寺駅を降り、出口階段を上がりきると、目の前に新築
の講談社本社ビルがそびえ立っていた。
1Fの受付で面会の手続きを済ませ、最新の雑誌や書籍を展示している3F
のショースペースで、人材開発部のOHさんを待つことになる。
5分ほど待ったであろうか。
小脇にファイルを抱えた、ボクよりひと回りほど(年齢が)上と見受けられ
る方と、年齢はボクよりやや上なだけだろうが、お腹はひと回りほど大きい
方…。2名の男性がエレベータから出てきた。
「パフの釘崎さん…ですか?」まずひと回りほど年上の男性の方が声を
かけてきた。
(あ、この人がOHさんだな!)
「は、はい。釘崎です。あ、OHさんですか?ど・どうも初めまして!」
「はい、OHです。ようこそいらっしゃいました。ささ、どうぞこちらへ」
と、通されたのは、とてもお洒落なカフェテリア風の社員食堂だった。
「釘崎さんは、飲み物は何がいいですか?」
「あ、ありがとうございます。じゃ、あのーコーヒーを…」
一見こわもてに見えた2人だったが、とても親切なもてなしを受けて気持ち
がずいぶん和んだものだ。
OHさん自身がコーヒーを席まで持ってきてくださり、その後、型どおりの名
刺交換をした。
「あらためまして。わたくし、パフの釘崎と申します」
「講談社人材開発部のOHです」「同じく人材開発部のMKです」
OHさんは部長、MKさんは副部長の肩書きだった。
聞くところによれば、ちょうど、2000年春の定期採用のための応募書類
が出来上がったところで、資料請求希望者1万名以上の学生に対して、これ
から書類の発送作業をしなければならない、という時期だった。
約1時間くらいだったろうか。
OHさんMKさんから、講談社の採用の現状を聞かせていただくと同時に、
現在の就職・採用環境に関する様々な意見交換を行った。
結局最後まで、パフの営業っぽい話はまったくなしで、世間話を延々としに
いったような感じだった。
ただ、話をした後は、なんとも言えぬ爽快感があり、初対面であったはずの
お二方だったが、まるで10年来の友人に再会したような、そんな錯覚さえ
覚えるような面談だった。
ボクはこの日まで、大手マスコミ・出版業界に、どうもある種、偏見という
か誤解があった。
誤解…というのは、放っておいても多くの学生が応募してくる業界であり、
学生を集めるというよりは、排除するほうに腐心している業界だと思ってい
たきらいがある、ということだ。そして質の高い学生の獲得には、全然
苦労などしていないのだろうな、と思っていたのだ。
つまり、パフがビジネスとして入り込む隙など、まったくないと思っていた
のだ。
ところが、話を聞いてみるとそんなことは全くなく、自社の採用だけにとど
まらず、学生全体、会社・社会全体の就職・採用問題に関して、強い危機意
識・問題意識を、少なくともこの講談社の2人は持っていたのだ。
自分の浅はかな先入観を恥じるとともに、今日のこの面談がその先入観を木っ
端微塵にしてくれたことが、やけに嬉しかった。
「じゃー、釘崎さん。これから我々は採用の実務で忙しくなりますが、ぜひ
また落ち着いたら遊びにいらしてください。今日はとても楽しかったですよ」
これまた丁寧な言葉でエレベーターまで見送っていただいた。
地下鉄有楽町線での帰り道。
「うーん。講談社かー…。なんとかパフの協賛企業になってもらえないか
なー。でも、講談社にとってパフに協賛するメリットって…」
ない頭をひねりながら、いろいろと策をめぐらすボクであった。
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