釘さんの100の出会い プロフィール
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  <第08話> 「由布院のたこ焼き屋さん 」   2005/01/11  
 
僕は小学校4年生くらいから肥満傾向にあった。というかデブだった。

その原因は、おそらく「たこ焼きの食べすぎ」にあったのではないかと思って
いる。

僕が通っていた由布院小学校から自宅に帰る途中の道路わきに、そのたこ焼き
屋さんはあった。小学校3年生の始めころだったと思う。友達に「すげーウマ
イもん食わせちゃるけん行こうや」と誘われ、連れて行かれたのが最初のキッ
カケだった。

狭いカウンターだけの店。子どもが10人も座ればもう満員だ。カウンターの中
では、おばちゃんが一人でたこ焼きを懸命に作っている。ものの見事な手さば
きで、鉄板のたこ焼きをクルクルひっくり返す姿がとても魅力的だった。小麦
粉の焦げた香ばしいかおりがまたたまらない。ふーふーやりながら、一口食べ
てみる。美味い!じつに美味しい。今まで食べたことのない味だ。もちろん僕
はこの時まで、「たこ焼き」という食べ物の存在を知らなかったのだが、いっ
ぺんに大ファンになってしまった。

ところでこのお店のたこ焼きの料金は、3個で10円という値付けだった。まさ
に絶妙な値付けだ。というのも、僕らの当時の1日のお小遣いの相場は10円。
その貴重な10円というお金を何に使うかが、僕らに取っての一大テーマだった。

いちばん多かったのは駄菓子屋のくじ引き。当時、1回5円のくじと10円のく
じの2種類があった。くじ引きをしないときは、やっぱり食べ物。夏であれば
アイスクリーム。冬であれば焼き芋。季節を問わずに買っていたのは、チョコ
レートやキャラメル。グリコのキャラメルは、「おまけ」を目当てにしてよく
買ったものだ。

当時はこれらを全部10円で手に入れることができたのだが、そこに現れた強力
なお小遣いの使途。それが3個で10円のたこ焼きだったのだ。僕は友達に連れ
られて食して以来、3日に1回は食べに行くようになってしまった。中学校を
卒業するまで、僕のたこ焼き好きは変わらず、おかげでずっと太ったままだっ
た。

中学校を卒業して由布院を離れることになった僕は、このたこ焼き屋さんから
も遠ざかることになる。大分のデパートの中にあるたこ焼きを食べたりしたこ
ともあったが、由布院のあのたこ焼きの味とは程遠い。大学生になって東京に
出てきてからも、美味しくて評判だというお店のたこ焼きを食べたが、やっぱ
り由布院のたこ焼きと比べると、全然たいしたことはない。

僕にとって3個で10円のたこ焼きは、どんなに高くて美味しい寿司よりも、ス
テーキよりも、価値のあるものだった。

僕の7つめの素敵な出会い。「由布院の3個10円のたこ焼き」のお話でした。
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