釘さんの100の出会い プロフィール
バックナンバー一覧へ
 
  <第131話> 「新卒二期生 伊藤篤志の巻」   2007/07/09  
 
「ところでさ、こういう会社もあるんだけど…。キミには、パフよりもむしろ こっちの会社のほうがピッタリのような気がするんだけど、どうだろうね?」

どうやら、こんなことばかりを僕は言っていたらしい。本日登場の、新卒二期 生、伊藤篤志(以降、イトー)との面接時の会話である。

まったくふざけた面接である。学生側は懸命に臨んでいるというのに、それに きちんと向き合うべき面接官(しかも社長)が、他社の斡旋をしているのだか ら。

今でもイトーは、半年に1度は、このときの話題を持ち出す。「まったく酷い 会社、いや酷い社長だと思いましたよ」。しかし、そんな会社を選ぶイトーも イトーである。

次回以降のコラムにも順次登場する予定だが、イトーたちの代の内定者は、全 部で5名いた。当時のパフの正社員は4名(うち新入社員3名)だけだったの で、まさに大量採用である。

彼らも新卒一期生同様、「すぐにパフで働くこと」を採用の絶対条件にしてい た。

今回登場のイトーも、ぶつぶつ文句を言いながらも毎日出社していた。ぶつぶ つ…というのは(これも後から聞いて思い出したのだが)、最終面接の時に、 イトーが

「夏休みの終わりには、自転車で日本一周とかやりたいんですが、休めますか ね?」

と聞いていたらしく、それに対して僕は、

「うん、大丈夫、大丈夫。学生最後の夏休みだしね。もうその頃には忙しくな くなってると思うから、日本一周でも二周でもやれると思うよ」

と、答えていたらしいのだ。

しかし、飛んで火に入る夏の虫。いったん働き始めたら、抜けられなくなって しまったのだった。無理やり休もうと思えば休めたのだろうが、休めるような 安穏とした会社の状態ではないことが、よく分かったのだろう。

同時に、とても負けず嫌いだったイトーは、よくトラブルを起こしていた。内 定者時代のイトーは、一期生のヨシカワの部下だった。ヨシカワから、DMの 袋詰めの仕事を頼まれたイトーは、「なんでオレがこんな仕事を…」と思いな がら、しぶしぶ仕事を引き受けてやっていた。

外出先から戻ってきたヨシカワは、イトーに、「あんた、まだたったのこれだ けしかやれてないの? サボってたんじゃないの!?」と言って、たしなめた。

イトーは、それにぶち切れて、キャビネットをバーンと蹴飛ばして、事務所を 飛び出して行った。

後で話を聞くと、イトーはイトーなりに、真面目にキチンと仕事をしていたつ もりだったのが、ヨシカワから頭ごなしに叱られたことに切れてしまったらし い。ヨシカワはヨシカワで、帰ってくるなり、ふて腐れた態度で仕事をしてい たイトーに切れてしまったらしい(その日の夜、二人で居酒屋に行って、腹を 割って話し合い、仲直りをしたらしい。さすがではあるのだが…)。


イトーは、目新しいことには誰よりも先に手を挙げるタイプだった。内定者で あるにもかかわらず、他の先輩を押し退けて、イベント責任者になったのだっ た。

好奇心はもちろんだが、「自分ならうまくやれる」という自信もあったのだろ う。しかし、それほど世の中は甘くない。物事は、思ったとおりに運ぶもので はない。ひとは、思い通りに動くものではない……。そんな当たり前の現実を、 イトーはこのとき初めて知ったことと思う。

頭に来るくらい冷静で生意気だったイトーが、結果的に成功裏に終えることの できたイベントの打ち上げのときに涙を流したのだ。

『仕事は決して楽ではなく苦しいことだらけだが、逃げずにやり遂げた時には、 喜びと感動を得られる瞬間がやってくる』

社会人なら誰もが知っていることだが、イトーは内定者時代のイベント責任者 という仕事を通して、そのことに気づいたのだろう。涙を流したときが、彼の 実質的な社会人デビューの瞬間だったのだと思う。

そんなイトーも、すでに入社6年目。すっかり見た目はオッサンであるが、彼 はいまや、パフの企画プロデューサーとして、またイベントの名司会者として も、なくてはならない存在となった。

営業としての稼ぎはイマイチだったが、「イベントといえばパフ」という第一 歩を築いた功績は大きい。イベントの次に彼が新しく生み出してくれるものに、 今後は大きく期待したいと思う。

ということで84番目の出会い。新卒ニ期生のイトーこと、伊藤篤志との出会 いでした。
<< 前のコラムへ 次のコラムへ >>
 
バックナンバー一覧へ