2000年9月14日(金)。
場所は、世田谷にある大手化学メーカーSS社の、なぜか社員食堂。
「内定者研修」の名目で悪戦苦闘の営業活動を行っているパフの内定者フル
カワアキコとボクは、30分以上の大遅刻の末、やっとの思いでSS社にた
どり着いた。
汗だくの2人の姿を哀れんだSS社の人事担当者Nさんは、2人を食堂に連
れて行き、アイスコーヒーをご馳走してくれたのだった。
……
「あれ~、パフさんって、月島なんですか?へぇー奇遇ですね、僕は勝どき
に住んでいるんですよ。っていうことは、歩いても行ける距離ですね」
大遅刻して、シュンとしている2人に、Nさんはこんな話から場を和らげて
くれた。
ボクは、Nさんと仕事とは関係ないくだけた話をしているうちに、大遅刻し
てしまった罪悪感が吹っ飛んでしまっていた。
「ところで…」
とNさんの方から切り出してきた。
「パフさんから送られてきた企画書、よく拝見させていただきました」
「あ、あぁ、ありがとうございます」とボクとフルカワ。
「パフさんが企画書の冒頭に掲げてらっしゃる『パフの就職と採用について
の考え方』や『協賛企業に求める協賛基準』を読んでいて、まさに、これだ!
と思ったんです」
Nさんは、パフの掲げる理念をはじめとして、パフを使った場合の新卒採用
の手法に関心を示してくれていた。
ボクとフルカワは、ここぞとばかりに、パフの説明を一気にし始めた。
Nさんも、いろんな質問をボクたちに発しながらも、理解を深めていってく
れた。
ボクは直感的に「これは、もうSS社は協賛企業になってもらう運命の会社
だ」と思った。いや、決め付けた。
1時間ほど経ったであろうか。一通りの説明が終った後に、ボクは思い切っ
て言ってみた。
「Nさん、できれば今日中に、協賛の結論を出してもらえませんか?」
実は、フルカワは学校の授業の関係で、翌日、大阪に帰らねばならなかった。
フルカワの内定者研修最後の日に、初受注をプレゼントしてあげたいと思っ
た。Nさんにも、その事情を説明した。
Nさんはビックリしていたが、少し考えて、
「わかりました。でも、僕一人で決めることはできません。上司とも相談し
てみますので、夕方まで待ってください。結論が出次第、お電話します」
と言ってくれた。
大遅刻したうえに、「今日中に契約の返事をくれ!」などと迫るとは、なん
て失礼で乱暴な営業だろう。
ボクとフルカワは、Nさんに深々とお辞儀をして、SS社を後にした。
2人とも、つい一時間前までは遅刻して落ち込んでいたくせに、帰り道は、
商談が成立しそうな予感を胸に、ルンルンしながら、スキップでもしそうな
勢いで用賀駅に向かったのだった。
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