1998年5月下旬。
ボクは、ディー・ブレイン証券という証券会社のM社長と打ち合わせを重ねていた。
ディー・ブレイン証券とは、未公開会社(とりわけ設立間もないベンチャー企業)の株式市場を作ることを目的として設立された証券会社である。
1997年の7月に設立されたばかりの証券会社で、この会社自体がそもそもベンチャー企業であった。
少し難しい話になるが…。
会社が資金調達をする方法として、大きく分けると「間接金融」と「直接金融」の2つの方法がある。
「間接金融」とは、普通に、銀行や信用金庫などの金融機関からお金を借りることを言う。
ただ、設立間もないベンチャー企業が、無担保・無保証で借金できる金額は極めて小額であり、特に98年は、金融機関の「貸し渋り」が激しくなった時期であったため、小額の借金でも極めて難しい状況であった。
「銀行は雨が降っても傘を貸さないどころか、大雨の中、やっと歩いている弱者(資金に困っている中小企業)から、無理やり傘(金)を奪いとる機関である…」
との恨み節が、借金の引き上げにあった中小企業の経営者から毎日のようにあがっていた頃だ。
これに対して、「直接金融」とは金融機関に頼らない資金調達である。
つまり、市場(投資家)に会社の株式を発行して、それを買ってもらい、資金を調達する方法である。
買い手は、買うお金さえあれば、個人でもまったくOKである。買い手のメリットは、株式の値上がりによる利益が、通常の銀行預金などに比べると、かなり高くなる可能性があるということ。
逆に元本割れはおろか、買った株式が紙切れになるリスクも併せ持つ。
従来、この「直接金融」は、上場企業のためだけのものであった。
上場企業は、会社のさまざまな情報を開示する義務を法律上負っている。このため、投資家は、会社の情報をよく知った上で、自己責任により当該企業の株式を購入することができる。
ところが上場企業以外の会社は、この開示義務がないので、投資家は会社の真の状況をつかむことができずに、リスクの高い投資をせざるを得ない。
そんなことで、証券会社が未公開会社の株式を扱うことは、長い間禁止されていた。
その流れを変えようとしたのが、ディー・ブレイン証券であった。
1997年7月、日本証券業協会が、
1)継続的に会社情報を開示している会社
2)公認会計士または監査法人が監査をし、適正・適法と認めた会社
については、証券会社の取り扱いを認めようとの決定を行った。
それを受けて、すぐに設立されたのがディー・ブレイン証券である。
そのディー・ブレイン証券のM社長とパフは、この市場を使って資金調達ができるのか、どうなのかを真剣に討議していたのである。
この時「直接金融」のことを知らなかったボクは、M社長に色々なことを教わっていた。
そして…、悩んだ上で、会社情報を公開し、資金調達をすることに決めた。
「会社情報の公開」が、どれだけ大変なことか……
この頃のボクは、ほとんど理解できていなかった。
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