M社長 : 「あとは私がなんとかします。釘崎さん、もうひと頑張りしていただ
けないですか?」
釘 : 「わかりました。納得してもらえるだけのものが作れるかどうか自信はあり
ませんが…ここで引き下がるわけにはいかないですからね(笑)」
日本証券業協会の定めるグリーンシート市場に登録し、証券会社を通じて広く
株主を募集する。そしてパフが発行する新株を買ってもらい事業運営に必要な
資金を手当てする…。
いわゆる「公募増資」による資金調達だ。
この手法で資金調達が実現できなければ、パフの就職情報ビジネスの継続は、
極めて厳しい情勢だった。
なにせ資金が、あと2ヶ月程度で枯渇するというひどい財政状態で、サイトの
開発資金や広告宣伝資金はおろか、給料や家賃さえも払えない状態が目前に迫っていたのだ。
だから、是が非でも、グリーンシートに登録するための審査を潜り抜けなけれ
ばならなかったのだ。
……
いったんもらった“×”の審査結果をひっくり返すために、1週間の時間をも
らって、ボクは再度パフのビジネスについて、整理し始めた。
「学生を味方につけ啓発し育てる」「学生個人の視点で職を考える」
「辞書的マスメディアから、少量の情報でも信頼できるメディアへ」
「パフが“良い会社”と判断した会社しか、パフは顧客としない」
たいへん「偉そう」ではあるが、それまで“数”を競い合っていた就職情報業
界において、この考えは間違っていないと思った。
そして、ある程度体系化したものが「パフの職サークル」であった。
・学生も企業も「パフの職サークル」の中では、平等に互いの適性を正面から
考える。
・パフは「職学校」などを通じて、学生の職意識を育てる。
・職サークルで成長した学生は、職サークルに加わった企業に、特別なアプロ
ーチができる。
・企業も、そんな学生と出会える機会が多く持てる。
こんなことを、“とらぬ狸”の売上げ・利益の数字を含めて、A3用紙1枚の
紙にまとめた。
この紙をM社長に託して数日後、M社長から連絡があった。
M社長 : 「釘崎さん、なんとかOKが出ました!!
これで正式に日本証券業協会に登録手続きが出来ますよ!」
これはボクの推測だが、ボクの作った資料なんて結局はどうでも良くて、M社
長は追加資料があることを口実にして、反対していた審査員を強力に説得し
たのだろう。
このM社長、今は別の上場企業からスカウトされ、多くの投資案件に辣腕を
ふるっていると聞く。
寡黙でおとなしい雰囲気の人であったが、男気を感じさせる社長だった。
そして、1998年7月17日。
株式会社パフは、正式に日本証券業協会のグリーンシート市場に登録された。
「公募増資」手続きの本格スタートである。調達する資金は、2000万円。
果たして投資家の皆さんは、パフの株式に興味を持ってくれるのだろうか?
一方、ボクは、事業を本格的に推進すべく人材の採用=“中途採用”をこの時
期に決断したのだった。
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