1999年3月末。
ボクは、寺さんに打診を受けていた。
寺「釘さんさー、学生対象の就職講座でも開いてみんかい?」
釘「就職講座…ですか。実はボクもやらなきゃいかんかな、と思ってい
たところでした」
このころ、学生から高い受講料を徴収する就職塾が、あちこちで開催されて
いた。10万円とか20万円とか、よくもまー、そんなに払うなー、と思う
ような金額での塾も中にはあったようだ。
講師を務めていたのは、元アナウンサーとか、元編集者とか、元広告代理店
プランナーとか、いかにも学生の気を引きそうな“先生方”である。
「けっ!こんな連中に、何がわかるっていうんだ?高い金とりやがって!」
「学生の就職難を良いことに、食いもんにするんじゃねーゾ!!!」
「企業の採用も、よーわからんくせに。舐めてるんじゃないのか!?」
などと、汚い言葉をあえて使うと、こんな感じで思っていた。
そこまで就職講座に批判的だったボクが、どうしてまた、やろうと思ったの
か…。
ひとことで言うと、学生のことをもっと知りたい、と思ったからである。
“学生の立場から企業の採用を考える”というのは、パフの設立時からのポ
リシーであるが、パフの収益源は企業の採用予算であり、日ごろは企業の人
事担当者と会話をすることが圧倒的に多い。
つまり、いつの間にか企業側だけの論理ですべてを考えてしまう癖がついて
しまい、「学生の立場から…」というのが、建前だけになってしまいそうな
危機感を持ち始めていたのだ。
いつも、学生の気持ちを、肌で感じ取れるようでなければ「学生の立場から」
なんて、おこがましくて口になんか出せない。
釘「寺さん、やっぱり就職講座やりましょう!講師は寺さんにお願いして
いいですか?」
寺「がってん、おまかせ!」
と、寺さんが言ったかどうかは定かではないが、わずか数分の打ち合わせで
講座の実施が決まったのだ。
1回の定員は10名。時間は3時間。受講料は3000円とした。
会社の利益とするには、あまりにも低い料金設定だが、目的は売上げではな
いので、これでよしとした。
その日の深夜、ボクは早速パフの会員に対して“塾生募集”のメールを送信
した。申し込みは、メールの返信で。申し込み時には、簡単な近況報告を交
えたレポートを課していた。
「有料だし、レポートも書かなきゃいけないわけだし。そんなにすぐには申
し込みはないだろうな」
そう思って、そろそろパソコンの電源を切ろうとした矢先だった。
コン!コン!コン!
立て続けに、メールの着信音が深夜の事務所に響いた。
メールの件名は、「就職講座を申し込みます」。
なんと配信から30分もしないうちに、講座の申し込みメールが届き始めた
のだった。
コン!コン!コン!コン!コン!
さらに続々とメールが届く。
メールには、就職活動を進めるにあたっての、様々な相談ごとや悩みごとが
書いてある。
ボクは一通一通目を通すうちに、帰れなくなってしまった。
気がつけば明け方だった。
合計、30通を超えるメールが届いていた。
「定員10名なのに、わずか数時間で3倍以上の申し込みか…」
「す、すごいニーズなんだな…」
パフがこの創業間もない頃、どこまで学生に信頼されていたのかは“?”である
が、大きな手ごたえを感じていた。
が、一点、ちょっとした心配事があった。
実はこの就職講座、寺さんの発案で、「え?」と思われるような胡散臭いこ
とを、参加学生に課していたのだった。
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