自転車操業物語 プロフィール
バックナンバー一覧へ
 
  第45話    「売れる⇒売れない⇒売れっこない!?(後編)」    
1999年9月。

インターンシップ生で編成した「にわか営業部隊」。売上げゼロ円という、
散々な成績で1ヶ月が過ぎ去ってしまった。

『どんなに頑張っても、売れっこない』
『リクナビや日経には、かないっこない』
『企業はどこも実績主義だから、パフなんて新参者は相手にもしてくれない』

こんな愚痴が、社内では囁かれるようになっていた。

さらにこの頃、皆を恐れさせるニュースが日経新聞の一面に踊ったのである。

「ソフトバンクと光通信が共同で、ネットを使った新卒向け就職情報事業に
本格参入。リクルートの数分の一のコストで、企業の採用活動を支援」

99年の夏といえば、ネットバブルへの上り坂の頃。
ソフトバンクと光通信は、IT業界のお手本のような存在として、連日、新
聞や雑誌で持ち上げられていた2大企業である。

そのソフトバンクと光通信が、こともあろうに手を組んで就職情報事業に乗
り込んでくるという。

すでに就職サイト名は決まっていた。
「eキャリア」という名称のサイトで、近日中に光通信の営業部隊が中心と
なって、全国の企業を対象に一気に営業攻勢をかけるという。
#これは後日の笑い話だが、パフにまで営業の電話がかかってきた。


このニュースを見て、インターンシップのS君が騒ぎ始めた。


S : 「釘崎さん、ソフトバンクと光通信が本気でやりはじめたら、パフなんて、
   もうお手上げですよ」

釘 : 「なんで?」

S : 「だって、あのソフトバンクですよ!光通信だってスゴイ営業力を持った
   会社なんでしょ?」

釘 : 「そう?」

S : 「しかも、値段は、リクルートの3分の1以下らしいじゃないですか。
   パフよりも安いんですよ!ぶつかったら勝てっこないじゃないですか!」

釘 : 「……」

ボクは複雑な気分だった。

釘 : 「『eキャリア』の記事は読んだよ。実は、資料も事前に入手できていて、
   記事に載っていない、もっと詳しい情報も知っているよ」

S : 「強敵でしょ?」

釘 : 「いや。敵とか、そういう見方は正しくないね。『eキャリア』のお客さ
   んと、パフのお客さんは、まったく異質なはずだよ」

S : 「???」

釘 : 「もっというなら、おそらく『eキャリア』は、読者である学生の支持は
   残念ながら得られないだろうね。そして初年度利用した企業も、2年目か
   らは使わなくなると思うよ」

S : 「なんで、そんなこと言えるんですか!?広告もバンバン打つって書いて
   ありますよ!相手は資金が有り余っている大企業ですよ!」

釘 : 「見てみなよ、このカタログや資料。学生をモノのように扱っているし、
   ネット上だけで学生選別を行おうとする姿勢がありありだろ?」

S : 「でも、これは企業向けの資料だから、仕方ないでしょ?」

釘 : 「うん。そうかもね。でも、きっとサイト運営でも、この姿勢は学生に伝
   わると思う。それに、パフを真剣に検討してくださる顧客は、eキャリア
   には関心を示さないと思うね」

S : 「よくわからないです……」

釘 : 「つまりさ、パフと『eキャリア』では、商品もお客さんも違うってこと
   だよ。同じ『新卒向け就職サイト』であったとしてもね」


こんな会話を、S君をはじめとするインターンシップと交わしたのだった。

全然売れていない「パフ」の代表者が、こんなことを言っても、インターン
シップの彼らには、「負け犬の遠吠え」にしか聞こえなかったかもしれない。

しかし、この「ソフトバンク・光通信が就職情報事業に参入する」というニ
ュースのおかげで、「パフ営業不振」の原因の一部がわかった。


#ちなみに「eキャリア」は、1年後、新卒向けサイトから撤退した。
#現在は、中途向け専用のサイトとして運営されている。
#新卒向けサイトは、ダイヤモンド・ビッグ社と提携し「就活ポラリス」と
#いう名前で運営されている。


パフが大事にしなければならないこと、つまり『学生の視点で「就職」を考えること
が、結果として企業の採用の成功を生む。そのためには「顔の見える就職と
採用」が必要なのだということ』が、しっかりと皆の意識の中に根付いてい
なかったのだ。

もちろん、それだけで営業がうまくいくほど生易しいものではないのだが、
少なくとも根底の部分で、我々は軸を見失っていたのだと思った。

ボクは、あらためて「思い」を言葉にすることの重要性を痛切に感じた。

そして、10月のサイトリニューアルに際して、ボクは「パフの就職事業に対
する考え方」という文章を掲載することにしたのである。

(どんな文章でしょうね?…つづく)

 
<<  前のコラムへ 次のコラムへ  >>
 
バックナンバー一覧へ