大学生の夏休みは長い。7月下旬から9月下旬まで、なんと2ヶ月間もあるの
だ。
大学1年生の夏休み。僕はこの長い休みの最初の1ヶ月を、某工場での夜勤の
バイトで過ごしていた。その後1週間を旅行(先週のコラムで書いた、九州・
熊本の母方の実家への旅行)で過ごした。
そしてバイトも旅行も終えた9月上旬。僕は、まだ夏休みのはずの大学のキャ
ンパスに戻った。
なぜか?・・・人形劇の練習をするためだったのだ。
僕の所属していた人形劇団では、夏休みが終了する直前の9月中旬~下旬にか
けて、「地方公演」なるものを行なっていた。
普段は、東京都内の幼稚園や小学校や児童館での公演なのだが、夏休みは、合
宿を兼ねて、地方の学校で公演を行なうことになっていたのだ。
そして、ぺーぺーの新人劇団員だった僕のデビュー公演が、この夏の地方公演
だった。
9月とはいえ、残暑厳しい中での連日の練習。人形劇というと「ままごと」の
ようなアマちゃんたちの活動を想像する人がいるかもしれないが、とんでもな
い。体育会顔負けの、厳しい練習の毎日だったのだ。
人形劇というのは、「ケコミ」と呼ばれる高さ1M程度の舞台のうえで繰り広
げられる。舞台に立つのはもちろん人形だ。で、その人形を操るのが、僕たち
キャストだ。キャストはケコミの下に中腰になりながら、人形を操る。操りな
がら台詞を喋る、というか演じる。
中腰の姿勢を何時間も連続で続け、しかもずっと手は上にあげたまま。声は腹
から振り絞りながら何十メートル先までも通る声を出し続けなければならない。
おまけに長い台本・台詞は、ぜんぶ頭の中に叩き込んでおかなければならない。
足はガクガク、汗はダラダラ、のどはカラカラ、頭はパンパンなのだ。
練習中は先輩たちから、
「こら!人形の目線が合ってない!!」「おい、人形が宙を浮いてるぞ!!」
「なんだ、その台詞は?ぜんぜん気持ちが籠ってない!!」
「そんな演技で子どもたちが喜んでくれると思うのか?子どもを舐めるな!」
などという罵声が飛んでくる。
日頃はやさしい女性の先輩たちが、阿修羅のように見えてくる。
「なんで俺、こんなムチャクチャ怒られなきゃいけないんだ??」
「たかが幼稚園のガキ向けの、子供騙しの人形劇じゃないか……」
あまりの練習の厳しさに、そんなふうに腐りかけていた僕だった。
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