「なんで俺、こんなムチャクチャ怒られなきゃいけないんだ??」
「たかが幼稚園や小学校のガキ向けの、子供騙しの人形劇じゃないか……」
人形劇の、あまりの練習の厳しさに、そんなふうに腐りかけていた僕だった。
それでもなんとか練習の最終日まで我慢して、やっと地方公演の当日となった。
場所は千葉県銚子市のとある幼稚園。僕らは前日から銚子に入り、その幼稚
園の講堂に舞台を組み立てた。
この舞台造りも、僕らの大事な仕事。暗幕や物干し竿やワイヤーを駆使しな
がら、見事な舞台が組み立てられていく。これは劇団に代々伝わる職人芸み
たいなものだ。素人からみれば「凄い!」の一言だ。
開演時間になった。講堂には、たくさんの園児たちが行儀よく座っている。
MC役のお姉さん(先輩の女性団員)が、「みんなぁ、こんにちは~!」と
子どもたちに元気よく呼びかける。
すると、子どもたちは、これ以上ないくらいの大声で
「こーんにーちはぁぁぁぁ!!!!」と返してくれる。
・・・すごい、凄すぎる。ケコミ(舞台)の下にしゃがんでいた僕は、その
元気のよさに圧倒されていた。
お姉さんの、「じゃ、はじまりはじまり~。パチパチパチ(拍手)」の合図
で僕の登場だ。
僕の役は、もぐらの「モグくん」。20数年経ったいま、このコラムに書く
のはとても恥ずかしいが、モグくんの熱演が、「ピョン子ちゃん」や、怖い
「オオカミ」を相手にして繰り広げられた。もう無我夢中だった。
約30分の劇が終わった。モグくんは、「じゃ、みんな、まったねー!」と
子どもたちにバイバイする。
すると子どもたちが、「モグくーん、バイバーイ」とか「また来てねー!」
とか反応してくれる。
なかには、「えー、いやだっ、モグくん、まだ行かないで!」と泣いてくれ
る子どももいる。
・・・感動した。「たかが幼稚園のガキ」ではなかった。僕の拙い演技を心
から喜んでくれた観客だった。
以来、子どもたちを見る目が変わった。大事なお客様になった。どうしたら
このお客様に喜んでもらえるのか、感動を提供できるのかを真剣に考えるよ
うになった。
僕の21番目の出会い。純粋な喜びを全身で表現してくれる「子ども」とい
う、かけがえのないお客様のお話でした。
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