アポナシで飛び込んだ水道橋の会社「〇〇土木建築設計事務所」。エレベータ
を降りるとすぐそこが受付のカウンターだった。50坪ほどのこじんまりした
フロアには、30名ほどの従業員たちが働いていた。
受付カウンターのそばにいた女子社員に「あのぅ…、採用の責任者の方をお願
いします」と声をかけた。
いつもの飛び込み訪問では、だいたい受付の段階で追い返されるのだが、この
会社の女子社員は、「はい、少しお待ちください」と、僕のことをつないでく
れた。ラッキーが始まった瞬間だった。
ほどなくして出てきたのは、40歳くらいの人事課長。数日前の電話を覚えて
いてくれたようだ。
この人事課長に頼み込んで時間をもらい、ひととおりの新卒採用のための媒体
の説明をさせてもらった。
しかし、人事課長の反応は鈍い。
「うーん。うちはね、やってる仕事が特殊だから、特定の学校の研究室からし
か採らないんだよね。だから媒体に広告を出す必要はないんだよねぇ…」
せっかっく飛び込んだ会社。僕は、そんなことくらいじゃ引き下がらない。
「いや、媒体使って、広く公募することで、今まで以上に優秀な人材が採れる
んじゃないでしょうか」などと、あぁだ、こうだ言いながら、しぶとく食い下
がっていた。
30分ほど経った頃だった。ひとりの男性が人事課長の隣の席にやって来た。
「なかなか、頑張ってますなぁ。私にも話を聞かせてもらえませんか?」
恰幅のいい50歳くらいの男性だった。名刺交換をしてびっくりした。交換し
た名刺には「代表取締役 O(オー)」と刷り込まれていたのだ。社長が突然
僕の目の前に現れたわけだ。これは千載一遇のチャンス。
「は、はい。ありがとうございます!! じゃ最初から説明させてもらいます」
と、さらにあれやこれや、提供できるサービスをイチから説明させてもらった。
「ふーん。なるほどね。会社案内の制作もできるんですな。じゃ、200万円
くらいでやってもらいましょうかね」。O社長は、いきなりこう切り出してきた。
「え!? に、にひゃくまん? 会社案内の制作?? ほんとですか???」
O社長の突然の言葉に、僕はただただビックリ仰天するばかりだった。
(次号、後編につづく)
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