S社にとっては初めての新卒採用。O社長もかなり期待していたようだった。
しかし僕が受注した企画は、何千社もの会社情報が掲載されている、分厚い電
話帳のような本へのモノクロ1ページだけの掲載。そこには資本金とか、従業
員数とか、売上げとか、事業概要とか、基本的な情報しか掲載されていない。
そんな情報掲載だけで、無名の零細企業に新卒者の応募なんて来るわけがない。
事実、当時のこの本のセールストークは、
『載せるメリットより、載せないデメリットのほうが大きい情報誌です』
『この本に載せないと新卒採用をやってない企業だと思われますよ』
というものだった。
なんて高慢かつ傲慢な営業スタイルなんだろう……と思いつつも、確かにこの
トークは効いた。たくさん売れた。
何千社もの企業の情報がこの本に載る。たくさん載ってるから、やっぱり載せ
ないとヤバイんじゃないかということで、さらに掲載企業数が増えていく。読
者である学生も注目する。世の中で新卒採用をしている会社は、すべてこの本
に掲載されていると錯覚する。
一方、掲載企業数が増えることで、知名度のない会社にとっての効果はどんど
ん低下する。何千社もの中に埋もれていくわけだから当然だ。だから、埋もれ
ないために、ページをカラーにしましょう!とか、フィードバックハガキをつ
けましょう!とか、もっと他のメディアを組み合わせて露出度をアップしてい
きましょう!とかで、1社あたりの取引高も、どんどん大きくなっていく。
効果がなくてもたくさん売れる。効果を出すために他の高い企画が売れる。ホ
ントにうまくできている。さすがだと思った。
でも、当時の僕は、このS社に対して『効果はありません』のひとことが言え
なかった。
効果が見込めないことを知りつつも、目先の売上げが欲しかった僕は、S社に
この情報誌への掲載企画を売りつけてしまったのだ。こりゃ一種の詐欺みたい
なものだ。
申込書(契約書)を片手に営業所に戻ったのだが、なにやらスッキリしない気
分だった。
「よし、怒られるの覚悟で、ちゃんと効果を出すための他の企画も提案してみ
よう!」
そう思って数日後、またS社のO社長に会う約束を取り付けたのだった。
(その4へつづく)
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