昨年の9月のことだった。福岡での出張の帰りに、故郷の大分県・湯布院町に
寄った。湯布院には80歳を超える母親が独りで住んでおり、僕は出張で九州
に行ったときには出来る限り顔を見せるようにしている。
このときも、母親に顔を見せてすぐに東京にとんぼ返りするつもりだったのだ
が、多少時間に余裕があったこともあり、中学3年生のときに同級生だった姫
野という悪友が働くガソリンスタンドに顔を出すことにした。
姫野は、湯布院で数軒しかないガソリンスタンドのひとつ、姫野石油を経営し
ているのだが、もう10年ほど会っていなかった。
「よおっ!」
ガソリンスタンドのツナギの制服を身にまといスタンド内をチョコチョコと動
き回っている姫野をみつけて、声をかけた。
「ありゃ? パンダやん、どげーしたんか、ひさしぶりやのう」
あいかわらずの、ちょっとガラの悪い、でも間の抜けた大分弁で、姫野は懐か
しい笑顔を見せた。あ、ちなみに僕の中学時代のあだ名は“パンダ”だった。
「おぅ、出張のついでにお袋のところに寄ったんやけど、ちょっと時間があっ
たもんじゃけん、お前の顔でも見ちいこうと思うちの。ははは」
僕の大分弁も、まだまだ健在だ。
「そうか、そりゃちょうど良かった。いや、実はのぅ。来年の正月に久々に大
掛かりな同窓会を開こうち、思うちょるんじゃ。お前、正月は帰っちこれんか
のぅ?」
姫野は湯布院に残っている同級生たちといっしょに、同窓会を企画していると
いう。10年の節目ごとにやってきたらしいが、東京にいる僕は正月に帰省す
ることは殆どなく、いままで一度も顔を出したことがなかった。
「同窓会かぁ。そういやぁ、もう卒業してから30年やのう。みんな元気かの
う。キヨさんとか会いてぇなぁ……」
思わず中学校時代に僕が好きだったマドンナの名前を漏らしてしまった。
「おう、今回は30年の大きな区切りやし、先生たちも、もう70歳前後やけ
んな。出来る限り大勢の連中を集めたいっち思うちょるんじゃ。パンダも帰っ
てきちくれんかのう。キヨさんもきっと来ると思うぞ」
「よし、分かった! 何とかしちみるけん。そん代わり、絶対キヨさんも呼べ
よ!」
こうやって、『素晴らしき出会いの再会』の布石が打たれたのであった。
(ドキドキの再会につづく)
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