F社の全国の各支店から営業部課長が集まってくる会議でのプレゼン。いった
いぜんたい、どのように行ったらよいものか。僕は途方に暮れていた。
「くぎやん、プレゼン資料できた?」
僕より2歳ほど年上のプロジェクトメンバーであるAさんが聞いてきた。Aさ
んはプロジェクトに参加する前までは、凄腕バリバリの営業マン。日本の大手
製造業を相手に、数多くのコンピュータシステムを売り込んできた人だ。
「それが、全然できてないんです。プレゼンなんて初めての経験なものですか
ら……」。僕は、青い顔をして答えた。
「そりゃ困ったな。じゃ、ちょっと一緒に考えよう。おい、Tくんも一緒に手
伝ってくれ」
Tくんというのは、F社の入社2年目の若手社員。特技は漫画やイラストを書
くことで、真面目に漫画家の道を考えたこともあったという。
AさんとTくんと僕の3人は、狭いミーティングルームで2時間ほど缶詰にな
って、プレゼンのストーリーを考えた。
さすが、F社の凄腕営業マンのAさんだ。実に分かりやすくスッキリとしたス
トーリーを考え出してくれた。
また、文字や図表だけのプレゼン資料では面白くないということで、Tくんが
漫画やイラストを書くことになった。
僕はTくんと一緒に、丸2日間、徹夜でプレゼン資料を作り上げた。
いまでもよく覚えているが、資料の表紙は、本当に漫画だけ。全部で10ペー
ジほどのプレゼン資料だったが、中身も半分以上がイラストと漫画で構成され
ていた。商品がすべてキャラクター化されており、目や口や手足まで付けられ
ていたのだ。
「本当にこんな冗談みたいなプレゼン資料でいいのかなぁ。部長に怒られるか
も……」
Tくんは心配そうだったが、僕は大満足だった。見やすくて分かりやすくて親
しみの湧く資料になっていたからだ。
「よっしゃTくん、ありがとう。これできょうのプレゼン、きっとうまくいく
と思うよ♪」
いよいよ会議が始まった。この会議の目的は、本社の販売促進プロジェクトか
ら、全国の各支店の営業マンに対して、コンピュータの新しい売り方のヒント
を提供することにあった。発表者は、僕以外には10名(プロジェクト)ほど
いた。一日がかりの長い会議だった。
僕の発表は、ちょうど真中あたり。足をガクガク震わせながら、順番を待って
いた。僕より前のプレゼンは、いずれも真面目な発表で、漫画を使った資料な
どは、もちろんひとつもなかった。
僕の順番が来た。「えーい、なるようになれ!!」。そんな気持で、壇上に向
かった。
(ドキドキしながら「その3」へとつづく)
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