1998年夏。パフが迎える初めての夏だった。
新卒向け就職情報メディアは、毎年、暑ーい夏に営業戦線が繰り広げられる。
その年の夏も、30℃を超える厳しい暑さの続く毎日だった。そして、その暑さ
以上に厳しいビジネスの現実を、来る日も来る日もイヤというほど教えられる
毎日だった。
「絶対売れる!」と思って商品化した『パフの職サークル協賛企画』。Webへ
の掲載はもちろん、約10万名の学生へのダイレクトメールもセットになってい
る。最低でも20社に売れないと赤字になってしまう、原価すれすれの商品だっ
た。
が、ほとんどの会社に見向きもされなかった。断られる理由は『実績がないか
ら』だった。企業は「実績」という二文字を重視する。特に人事部門は、会社
のなかでも保守的な人たちが集まっているセクションだ。実績のない会社に仕
事を任せることを極端に嫌う人たちが多い。
そんなこと分かっていたはずなのに、楽天的な僕は「なんとかなる」と思って
事業を始めてしまった。しかし、会社を起こして初めての夏。「なんとかなら
ないこともある」という現実に直面し、言いようのない焦りを、日を重ねる度
に感じていた。
・・・そんなときに出会ったのが、M商事の若き人事マンたちだった。M商事
といえば、日本を代表する大手総合商社。学生たちの憧れの就職先として、常
に君臨していた会社だ。僕は正直に言って、出来たばかりの「実績のないパフ」
に興味を持ってもらえるはずなどないと思っていた。
ところが、当時パフで営業をやっていたTさんが、M商事からアポをもらった
という。「話を聞いてみたい」と言われたという。
僕は「へー」と思いつつも、丸の内の、M商事の本社に訪問した。人事部のフ
ロアの片隅に置かれた打ち合わせコーナーで待つこと数分。出てきたのは、若
い2名の人事担当者だった。
「は、はじめまして」
若いといえども、相手は天下のM商事。こちらは創業数ヶ月の零細企業パフ。
緊張しながらの挨拶だった。
「どうも、はじめまして!!」
M商事の持つ、重厚長大な企業イメージとは裏腹に、とても人懐っこい笑顔と
明るい挨拶が返ってきた。
「M商事の採用を担当している杉村です」
「同じく、採用を担当している浦田です」
聞けば、浦田さんはその年の新入社員。人事部に配属されたばかりらしい。先
輩格の杉村さんも、まだ20代の若手人事マン。フレッシュなはずだ。
それから小一時間。僕はパフという会社のことを、この二人に懸命に説明した。
「実績」なんて何もないので、僕個人の話や、会社の未来の話をたくさんした。
若い二人の人事マンは、うんうんと頷きながら、僕の話に熱心に耳を傾けてく
れた。
それまでにも多くの大企業で、パフの話をしたことはたくさんあった。しかし、
これほどまでに熱心に話を聴いてくれる人事マンは初めてだった。
「ひょっとしたら、いけるかもしれない!!」
直感めいたものが、僕の心の中でざわめいていた。
(つづく)
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