パフの創業時の事務所は、東京都中央区新富のオンボロビルの一室。机を目一
杯押し込んでも6席しかはいらないような10坪ほどの小さな小さな事務所だっ
た。
この創業時の事務所から歩いてすぐの場所にあるスナックが、きょうのお話し
の主人公。お店の名前は『のろ』。10席ほどのカウンターとテーブルがひとつ
だけの、小さなスナックだ。
会社を作ったばかりのころ、(このコラムにも以前登場した)東映の常務と一
緒に飲みに行ったのが最初だった。「『のろ』さんは、安心して飲めるお店で
すよ。ママさんもとてもいい人だし…」と、近所の居酒屋のオヤジさんに勧め
てもらっての初訪問だった。
お店に入るなり「おかえりなさい、お疲れ様でした~」と、温かい声が飛んで
きた。声の主は『のろ』のママさんだ。カウンターの中から、満面の笑顔で発
せられた言葉だった。
初めてこの「おかえりなさい」の声を聞いたとき、とても懐かしく癒された気
分になった。「おかえりなさい」というたった7文字の言葉が、これほどまで
心に沁みたことは今までなかった。
以来僕は、最低でも一週間に1回は、この『のろ』に足を運ぶようになった。
お客さんと一緒に行くことが多かったのだが、ひとりで行くことも時にはあっ
た。特に辛いことがあった時、ママの「おかえりなさい」の声を聞くことで、
どんなにか救われたことか。
『のろ』のママは、僕より少しだけ年上。小柄なのだが、なぜか大きく見える。
辛いことも悲しいことも、すべてを包み込んでしまう器の大きさと、どんなこ
とでも許してしまいそうな優しさが、小柄なママを大きく見せてくれたのだと
思う。
もともと『のろ』は、ママのお姉さんが喫茶店として始めた店らしい。最初は、
お姉さんの手伝いで店に出入りしていたのだが、お姉さんが病気になり、すべ
ての切り盛りをママが行うようになった。ママがまだ18歳。高校3年生の頃の
話しだ。それからずーっと、ママがこのお店を守り続けてきたらしい。
『のろ』のスゴイところは、ママの「おかえりなさい」だけではない。手作り
の料理が美味しいところだ。豆腐料理、肉料理、野菜料理、煮物、漬物、おひ
たし、極めつけは特製ライスカレー。普通の食堂やレストランでは、決して出
会えることのない料理ばかり。まるで田舎に帰ったような気分になる品揃えな
のだ。
『のろ』が好きなのは僕だけではない。パフの若い社員も、皆大好きだ。若い
社員にとってママは、お母さんのような存在なのかもしれない。
パフが生まれてもうすぐ9年。パフと『のろ』との出会いも、もうすぐ9年に
なる。いつどんなときに行っても、ママの変わらぬ「おかえりなさい」の声が
迎えてくれる。
喜びも悲しみも、パフのすべてを見守ってくれた小さなスナック『のろ』。そ
して『のろ』を30年以上の長きに渡って守り続けてきたママ。僕にとって、パ
フの全社員にとって、かけがえのない65番目の出会いのお話しでした。
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